My Music Linernotes Vol.3 蓮沼執太(前編)
音にこだわりを持つミュージシャンやプロデューサー、スタジオエンジニアがこれまでに長く聴いてきた自らを形成した作品の魅力や音について語る連載コンテンツ「My Music Linernotes」。その第3回は2020年12月16日に羊文学の塩塚モエカを迎えた新曲「HOLIDAY」を配信リリースした蓮沼執太が登場。多彩な活動形態でも知られる蓮沼執太がmora qualitasを「digる」感覚で選んだ10枚について話を聞いていく。
(インタヴュー・文/小野島大 Photo by Takehiro Goto)
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中古レコード屋さんでレコードを掘っているような感覚で選びました
──選んでいただいたアルバムは蓮沼さんにとってどういう意味をもつ10枚ですか。
(選出は)中古レコード屋さんでレコードを掘っているような感覚でしたね。実際にdigるという行為に近いですよね。例えば、クラスターだったらクラウト・ロックの棚を探したり。検索するにしても検索エンジンにそのアーティストがあるかどうかもわからなくて、マイナーなアーティストだとなかったりもする。でも、その“ない”っていう経験がちょっとおもしろかったです。インターネットと向き合ってると、出会えないことってあんまりないじゃないですか。自分自身がわりとマイナーな音楽を聴いて育ってきた方なので、そういう人代表のつもりで選びました。
──なるほど。
今の世の中ってどんな音楽にでもアクセスできるじゃないですか。YouTubeで検索したら一応音楽はなんでも聴けてしまうし。でもそういうことではなく、このmora qualitasはハイレゾもしくはロスレス音質ですし、一般的なストリーミングよりも音質が当然良い。ぜひYouTubeじゃなくmora qualitasで聴いてもらいたいですね。
──そうですね。挙げていただいた音源を見てみると、半分以上が蓮沼さんの生まれる前(1983年生まれ)にリリースされたレコードなんですよね。中高生の頃は音楽を聴く専門だったというお話を以前お見かけしたのですが、その当時はどういうリスナーだったんですか。
小学校後半ぐらいからいわゆる“洋楽”っていうものが好きで、中学校から電車通学になったんですけど、通学をしていると行動範囲が広がって、急に大型CD屋、レコード屋さんとかに行くようになるんですよ。知り合う人も変わって音楽の幅も広がって、それで人が聴いていなそうな音楽をどんどん聴くようになっていきました。今回選んだものは大体70年代のものと、2000年代のものなんですけど、ちょうど高校~大学ぐらいの時期にハマってたものなんですよね。実際に自分が本当に熱心にレコードをdigしてたときに聴いていたものが多いかもしれないです。
──一番最初に好きになったアーティストは誰ですか。
僕はヒップホップが好きで、ニューヨークのラッパーが好きでしたね。ビースティ・ボーイズ、ジェイ・Zとかナズなんですけど。その後に西海岸の人も好きになりましたけど。
──ヒップホップのどういうところに惹かれたんですか。
言いたいことがあったらすぐにビートに乗せて言うっていうことと、周りにあるものを使って音楽を作っていくっていう点ですかね。サンプリングとかがまさにそうだと思うんですけど。そういう姿勢ですね。スケートボードをやっていた影響もあって音楽の聴き方にも姿勢が必要なんだ、と当時は思っていました。今は好きなように、自由に楽しむのが一番のリスニング方法だと思っていますよ(笑)。
──そういう心構えも含めてヒップホップが蓮沼さんにとっての入り口だったということですね。
そうですね。ヒップホップから音楽の世界に入っていくと、そのサンプルネタからソウルとかファンクとかテクノとかも行くし。テクノに触れたらテクノの周辺をまたどんどん掘っていけるし。そうすると、こっちのジャンルとあっちのジャンルが繋がってたとか、そういう発見が楽しくて、どんどん掘っていくわけです。誰も知らないような音楽があるといいなとピュアに思って、レコードとか音楽を探してましたね。
──80年代の終わりから90年代の頭って、そういう、誰も知らないようなレコードを中古レコード屋で掘ってきてそれをDJでかけたり、そういう時代でしたよね。
そうなんですね。僕はUSとかヨーロッパのインディーズミュージックをオンタイムで聴きあさってました。2000年代前半ぐらいの、当時は新しい音楽、いわゆるベッドルーム的な音楽をよく聴いていて。ポスト・ロックとか音響系、インディペンデントのヒップホップとか。そういうのはやっぱり細かければ細かいほど面白かったりするので。その辺りの楽曲は(mora qualitasに)あまりなかったので、今回選んでませんけど、後にアップデートされると良いですね。
──なるほど。挙げてもらったリストの中ではQティップとかクリプスとか、そのあたりはヒップホップにハマっていた当時にお好きだったアーティストっていうことですか。
そうですね。Qティップとクリプスは今もずっと好きですね。オールタイム・フェイヴァリット・ラッパーですね。
──Qティップはア・トライブ・コールド・クエストじゃなくてソロの『ザ・ルネッサンス』なんですね。
トライブもすごく好きですけど、このアルバムが特に好きだったので選びました。これかなり久々にリリースしたアルバムですよね(前作『アンプリファイド』以来9年ぶり)。ディアンジェロもそうでしたけど、傑作を作ってもう(しばらくは)出さないっていうタイプの人ですよね。そういう音楽家へのリスペクトを込めたところもあります。このアルバムも5、6年かけて作ってるらしくて。そういうことも選んだ理由のひとつです。
──ひとつの作品に徹底的にこだわって長い時間をかけて作る、次の作品がなかなか出てこないアーティストもいますが、蓮沼さんは違いますよね。とても多作ですし。
僕の場合もソロ作品はもう数年リリースしていませんが、いくつかのプロジェクトやコミッションなどで新しい音楽は作っています。良い作品を世に出すことは、もちろん制作時間の長さも大切ですけど、例えば3か月ぐらいの短い制作期間だって傑作が生まれるかもしれないので、一概には言えないですけどね。
──そうですね。
僕はあまり特定のアーティストの大ファンになることって少ないんですけど、Qティップは客演でラップをしてたら必ず聴いてしまうファン感情がありますね。
Qティップ『ザ・ルネッサンス』

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──クリプスの『ロード・ウィリン』はどういうところがお好きなんですか?
クリプスはちょうど自分が渋谷のレコード屋でバイトしてる時に、店でずっと流れてたんですよね。それで好きになりました。20歳くらいでしたね。
──その頃の思い出と繋がってる、みたいな。
そうですね、思い出ですね。僕の友達もよくかけてたし。僕がヒップホップとか好きだって言っても意外に思う方も多いですけど、ニュー・スクールとかが終わって、ある意味で新しいヒップホップ、ティンバランドとかネプチューンズとかが現れた時期の、波が変わるときに出てきている人たちは好きです。サンプリングでは無いクリエーションに興味がありました。
クリプス『ロード・ウィリン』

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──ディアンジェロの『ヴードゥー』もほぼ同じ時期のアルバムですね、
ヒップホップから掘っていくとだんだんソウル・ミュージックとかファンクとかを聴くようになるんですけど、当時の現役のシンガーで「うわっやられたな」って思える人がそんなに多くなくて。どっちかというとR&Bだと少しモダンなビルボード的な人が多かった。その中でディアンジェロは異彩を放ってましたね。売れてるけどセルアウトしてないし。『ブラウン・シュガー』とかを初めて聴いたときは本当にずっと聴いてました。それで『ヴードゥー』が出たときも、出てすぐにタワレコの試聴機で聴いて買った記憶がありますね。
──蓮沼さんはプリンスとかだと、ちょっと前の世代ってことになるんですか。
そうですね。僕の上の世代の人々がプリンスを聴いていて教えてもらっていましたが、僕らの世代はディアンジェロをオンタイムで聴いていたっていう。
ディアンジェロ『ヴードゥー』

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“なんでそうなっているのか”って思う音楽がすごく好き
──あとは70年代の作品が主になっていきます。アリス・コルトレーンの『トランセンデンス』を選ばれた理由は?
わりとこのアルバムが良い意味で聴きやすいアルバムだなと思っていて。A面とB面で結構違う構成になっています。A面がほぼハープで、B面がゴスペルというかちょっとインド音楽っぽい、祝福感があって。アリス・コルトレーンでもそういうアプローチはあまり他にない。アレンジとしても聴きやすいし、録音盤としての完成度も高いんですよね。ライヴで一発レコーディングっていうよりは、細かいアレンジがしっかりされてて、オーバーダブっぽい音作りにもなっていて。当時はたくさん聴いていたんですよね。
──蓮沼さんがご自身で打ち込みで音楽を作り始めたのはいつ頃なんですか。
打ち込みで真剣に始めたのは、22歳あたりです。
──意外と遅いんですね。じゃあアリス・コルトレーンとかを聴いている時は、まだリスニング・オンリーだった頃ですか。
そうです。今回挙げたQティップ『ザ・ルネッサンス』の時は活動してましたが、それ以外は全部リスナーとして聴いてました。
──自分の創作の参考のために聴くのではなく、ただ単に好きで聴いていた。
そうですね。僕は自分の創作の参考のために音楽を聴いてもあんまりピンとくることがなくて。なので、いつもリスナーとしての気持ちで音楽を聴いています。
──なるほど。アリス・コルトレーンというと、スピリチュアルな音楽と言われることもあります。そういう面での興味はあるんですか。
何をもってスピリチュアルかっていう問題もあるんですけど、僕はスピリチュアルな思考があるかと言われたら、そうではないです。だからこそ、“なんでそうなっているのか”って思える音楽がすごく好きで。フリー・ジャズでも、“なんでフリーになっていくのか”というミュージシャンのプロセスなどに対して興味がある。だからスピリチュアルっていうこと自体に対しての興味は少ないです。例えばサン・ラとかも、実際にライヴとかをみてると(宇宙と)交信することが演奏だったりする。天を仰ぐとか。そういう本質は僕には理解できないけど、とはいえ音楽の要因の一つとして、スピリチュアルな精神性のものに頼って作っていくという意識とか構造にすごく興味がある。例えばツトム・ヤマシタは禅的な意識の方向で音楽に向かっている。そういう精神状態には僕も興味はあります。
──蓮沼さんはそういう拠りどころみたいなものはあるんですか?
(笑)拠り所が僕はないんですよ。僕は無宗教なので、そういう意味での拠り所もない。そうなると拠り所は自分自身だったり、環境とかなんでしょうね。
──精神的なことだけでなく、例えばダンス・ミュージックをやっている人にはクラブという現場があって、それがひとつの拠り所になったりしますよね。
そうですね。音楽制作と自分自身というのが切っても切れないもので、自分自身が作曲した音楽が存在する場所、というものを決めつけたく無いという思いが強いです。つまり、どこでも自分の作品は世界に存在できる、そういう状態はある意味で理想に思っています。もちろん僕も曲を作る時その音楽がどのような場所で響くか当然気にして作ってるけど、ただそれをひとつの場所というよりはいろんなところに開放しているという感覚があるんです。ひとつじゃなくてみんなそれぞれの場所があるっていう認識ではあるので、自分の場合はいかに固定概念や様式をひっくり返していくか、そういう方に関心がありますね。
──なるほど。だからインスタレーションみたいなことをやったり、いろんな場所で蓮沼さんの音楽が鳴っているという状況を今作られているところなんですね。
基本的に空間は、ずっと存在すると思いがちなんですけど、やっぱりその一瞬しか存在していない。テクノロジーが進化したから録音技術が生まれて、音をレコードにできるだけであって、実際は音楽は聴く空間がないとその都度、音の形(響き)が変わっていくものだと思っているんです。なので、こういうインタヴューの時に“クラブのために音楽をやっています”と言うと、とても伝わる強いメッセージなんですけど、僕の場合は音楽は複数存在する、多種多様であるべきだと思っているので、こういう回りくどい答えになってしまいます。
アリス・コルトレーン『トランセンデンス』

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【LIVE INFORMATION】
■公演概要
出演:蓮沼執太フィル
公演タイトル:オーチャードホール公演『○→○』(読み:まる やじるし まる)
会場:Bunkamura オーチャードホール
公演日:2021年4月23日(金)
公演時間:開場18:00 開演19:00
チケット料金:全席指定¥8,000-(税込)
プレイガイド最速先行:2021/2/3(水)〜2/7(日)
プレイガイド先行(プレオーダー):2021/2/10(水)〜2/14(日)
プレイガイド先行(プレリクエスト):2021/2/17(水)〜2/21(日)
一般発売:2021/3/6(土)〜
プレイガイド:
※購入制限あり、お一人様2枚まで
チケットぴあ http://pia.jp/ Pコード:
ローソンチケット http://l-tike.com / 0570-084-003 Lコード:
イープラス http://eplus.jp
年齢制限:小学生以上有料。未就学児童は無料 (大人1名につき、子供1名まで膝上可)
但し、座席が必要な場合はチケット必要
電子チケットのみ
主催:J-WAVE / VINYLSOYUZ LLC
企画/制作:蓮沼執太 / VINYLSOYUZ LLC
協力:HOT STUFF PROMOTION
問い合わせ:HOT STUFF PROMOTION 03-5720-9999(平日12〜15時)
【MUSIC VIDEO】
HOLIDAY feat. 塩塚モエカ (Official Music Video)
https://youtu.be/MZ6rCoJGTdA
【Profile】
蓮沼執太(はすぬま・しゅうた)| Shuta Hasunuma
1983年、東京都生まれ。蓮沼執太フィルを組織して国内外でのコンサート公演をはじめ、映画、演劇、ダンス、CM楽曲、音楽プロデュースなど、多数の音楽を制作。また「作曲」という手法を応用した物質的な表現を用いて、展覧会やプロジェクトを行う。2018年個展『Compositions』(ニューヨーク・Pioneer Works)、『 ~ ing』(東京・資生堂ギャラリー)を開催。2013年アジアン・カルチュラル・カウンシル(ACC)のグランティとして渡米。2017年文化庁東アジア文化交流使として中国に滞在。第69回芸術選奨文部科学大臣新人賞を受賞。
蓮沼執太:http://www.shutahasunuma.com/
蓮沼執太フィル:https://www.hasunumaphil.com/
蓮沼執太フルフィル:https://www.hasunumaphil.com/fullphony/
Instagram:https://www.instagram.com/shuta_hasunuma/
Twitter:https://twitter.com/Shuta_Hasunuma
YouTube Channel:https://www.youtube.com/channel/UCSHp3rxbTIW0G2KZzk6R2cA
【作品情報】
最新作含めmora qualitasで絶賛配信中

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